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秋田地方裁判所 昭和57年(行ウ)3号 判決

秋田県北秋田郡鷹巣町鷹巣字本屋敷二八番地

原告

東北製鋼株式会社

右代表者代表取締役

山本淳

右訴訟代理人弁護士

武田清一

秋田県大館市大館町二番一六号

被告

大館税務署長

藤原俊夫

右指定代理人

阿部則之

佐々木運悦

佐藤毅一

尾久浩二

福田庄一

岡崎長

相馬正明

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五六年二月二八日付で原告の昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度の法人税についてなした更正のうち所得金額一一万四、七二三円を超える部分及び税額の全部並びに過少申告加算税の賦課決定の全部を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二請求原因

一  (原告の地位)

原告は、秋田県北秋田郡鷹巣町に本店を置き、鋳鋼品等の製造販売を営業目的とする株式会社である。

二  (本件処分の存在)

原告は、昭和五五年六月三〇日、被告に対し、昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)の法人税を青色申告書により所得金額零円、税額零円(還付金額四九万五、九〇五円と確定申告したところ、被告は、同五六年二月二八日付で所得金額を六、五六〇万九、五四〇円、税額を二、五四〇万三、五〇〇円に更正する旨の処分(以下「本件各更正処分」という)及び過少申告加算税一二七万一、〇〇〇円の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という)を行い、同年三月一日原告に通知した。

三  (本件処分の違法事由)

1  しかし、被告がした本件各更正処分のうち、一一万四、七二三円を超える所得金額の増額更正については、原告が訴外日本鋳造株式会社(以下「訴外会社」という。)からの借入金利息六、五四九万四、八一七円を約定どおりに本件事業年度に支払い、これを同年度の所得金額の損金に算入したものであり、これを同年度の損金として算入できないことを前提とした右増額更正は、法令の解釈を誤ったもので違法である。

2  そして、右所得金額の増額更正を前提としてなされた税額の増額更正及び本件賦課決定処分は違法である。

四  よって、本件各更正処分及び本件賦課決定処分の取り消しを求める。

第三請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一、二の事実は認めるが、三の主張は争う。

二  被告の主張

1  課税の経過

原告の本件事業年度の経過は、別表(一)のとおりである。

2  訴外会社からの借入れの経緯

原告は、昭和四四年九月以降、訴外会社の系列下に入り、訴外会社は原店の経営上の窮状を救済するため、事業資金の融資を開始し、昭和四四年八月一一日から同四六年二月五日の間、別表(二)の1ないし22のとおり、原告に融資した(以下「本件借入金」という。)。

3  本件借入金に係る利息の約定とその経理の状況

(一) 本件借入金のうち、別表(二)の1ないし7の各借入金については利率を日歩二銭四厘と定め、右各借入金に対する各借入日から昭和四四年九月三〇日まで利息は、同表利息額明細欄記載のとおり、原告から訴外会社に支払われた。

(二) しかし、訴外会社が融資を始めた後も、原告の経営成績は好転しなかったので、原告と訴外会社は、昭和四四年九月ころ、別表(二)の1ないし7の各借入金につき、同年一〇月一日以降は利息を徴収しない、すなわち、無利息とする約定に改めることに合意した。更に、昭和四四年九月三〇日以降に融資された別表(二)の8ないし22の各借入金についても、いずれも返済期限を定めず、無利息とする約定で融資が継続された。

(三) そして、原告と訴外会社は、本件借入金に係る昭和四四年一〇月一日から同四九年三月三一日までの期間(以下「本件計算期間」という。)における利息を、各事業年度の決算において費用又は収益に計上しなかった。

(四) しかし、訴外会社は、昭和四九年三月ころ東京国税局の調査を受け、訴外会社が原告に対し無利息の約定で本件借入金の融資をしていることは、利息相当額の経済的利益を無償で供与していることになり、右経済的利益の額を収益に計上し、その額を収益に計上し、その利益の流出を費用(寄附金)に計上すべきで、右寄附金は、法人税法三七条により、損金算入限度額を超過する金額は、損金不算入となるとの同局の判断が示され、この判断を前提として、訴外会社を所轄する川崎南税務署長は、訴外会社の昭和四五年一〇月一日から同四八年九月三〇日までの各事業年度の法人税の更正処分を行った。

右法人税更正処分に対し、訴外会社は不服の申立てをなさず、右処分は確定した。

(五) 原告と訴外会社は、前記法人税調査を契機として、昭和四九年三月末ころ、本件借入金元本の返済期限を原告の所有する埼玉県春日部市所在の工場隣接地(以下「本件土地」という。)の売却手続完了の時とし、利息は、年利でその時々の公定歩合に〇・五パーセント加算した割合、利払期は元本完済の時とする旨の契約が締結された(以下「本件変更契約」という)。なお、右契約においては、昭和四四年一〇月一日以降の期間についても遡って同様に適用するとの規定も設けられているが、原告も訴外会社も右期間の利息相当額については支払義務のある客観的・具体的債権債務としての認識は全くなかったのであり、これは全く形式的な規定にすぎないものであった。

そして、原告と訴外会社は、昭和四九年四月一日以降の各事業年度の決算において、本件借入金について、本件変更契約に基づく利息額をそれぞれ費用、収益として計上した。

(六) 原告は、訴外常和興産株式会社との間で、昭和五五年一月一五日、本件土地を代金一二億三、八六四万円で売り渡す旨の契約を締結し、その代金でもって、本件変更契約に基づいて、同年二月二九日に本件借入金二億五、〇〇〇万円を、同年三月一二日、融資金の残存元本五億二、三三一万五、八六〇円と利息として二億六、九九七万九、八四九円を訴外会社に支払ったが、右二億六、九九七万九、八四九円の中には、本件計算期間中の利息相当額六、五四九万四、八一七円(以下「本件支払金員」という。)が含まれており、原告は、右六、五四九万四、八一七円を本件事業年度の損金に算入した。

4  本件支払金員の性質

しかし、本件支払金員は、本件事業年度の損金の額に算入することは許されず、これは損金不算入額として、本件事業年度の所得金額に含まれるというべきである。

(一) 原告は、前記第三、二、3、(二)のとおり、昭和四四年一〇月以降については無利息の約定で融資を行ったのであり、同四九年三月に至って前記変更契約を結び、初めて利息を付す旨の合意をして、前記第三、二、3、(六)のとおり訴外会社に利息相当額を支払い、本件事業年度の損金に算入したものである。

しかし、原告のこのような処理が認められるとすると、例えば、親子会社間又は同族会社間における貸付につき、当初無利息の約定をし、事後に債務会社の所得の状況に応じて、右無利息の貸付を有利息に変更して、その利息を支払った事業年度の損金に計上することにより、債務会社の利益調整が自由となり、加えて青色申告の五年間の繰越欠損金制度(法人税法五七条)を潜脱することにもなる。その結果、債務会社の法人税の負担を不当に減少させる事態を招来せしめる。そして、右のような原告の処理は、経済的、実質的にみて、正常かつ合理的な経済人相互間においては通常あり得ないことであり、極めて不合理、不自然な行為であるといわざるを得ず、このことは、訴外会社が原告の全株式を所有して、その経営を事実上支配していたがゆえに、すなわち、原告が訴外会社に従属する同族会社であったがゆえに初めてなし得たものといわざるを得ない。

したがって、右の合意及びこれに基づく原告の本件事業年度における本件支払金員の損金算入は、これを容認すれば原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるので、法人税法一三二条一項の規定により、右行為及び計算を否認すべきものである。

(二)(1) 仮に、本件計算期間の利息が、利率の定めがないが有利息であったとしても、有利息である以上、期間の経過に応じた利息が発生し、また利率も通常支払うべき利率に基づいて合理的に算定しうるのであるから、右合理的に算定された利率に応じた利息が本件計算期間の各事業年度の損金に計上されるというべきである。

こう解さないと、本件借入金のように、利率の約定を明確に定めないで、所得金額が多額に算出される事業年度において確定利率を約定し、当該事業年度に過去の経過期間に対応する利息まで一括して損金に計上することが、理論上認められることになり、その結果、法人の利益調整を許容するという不合理な事態を招来する。

(2) また、本件計算期間の利息債務が、昭和四九年三月の合意によって確定したものであるとしても、右利息債務は、その確定したとされる日の属する昭和四九年三月期事業年度の損金に計上すべきものである。そうでなければ、当事者間(特に系列会社間)の任意な契約により自由に損金計上時期を選択しうる結果となり、各事業年度の所得金額計算上不合理な結果を招来することとなる。

5  したがって、これに対して、被告は、本件各更正処分及び本件賦課決定をしたのであり、いずれも適法な処分である。

第四被告の主張に対する認否及び原告の反論

一  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1、2は認める。但し、原告が、訴外会社の系列下に入ったのは、昭和四四年八月二〇日である。

2  被告の主張3(一)、(三)、(四)、(五)、(六)は認めるが、(二)は否認する。

3  被告の主張4、5は争う。

二  原告の反論

1  本件支払利息に関する約定の性質

(一) 原告は、昭和四四年八月、訴外会社の系列下に入ったが、その後も業績は好転せず、債務超過の状態が続き、訴外会社から借入れた借入金(この借入金の利率は、日歩二銭四厘、利払期は決算期から四半期毎の約束であった。)の元本の返済はおろか、利息の支払いも困難で、その他の利息の支払資金まで訴外会社に借金をせざるを得ない状態であった。

(二) そこで、昭和四四年九月二日ころ、訴外会社において、原告からの利息の徴収について検討し、その結果、同年九月末までの利息は徴収し、一〇月一日以降の分については、その時の状況を見て決めることとした。

(三) しかし、同年一〇月以降も原告の業績は好転しないため、訴外会社は、同月一日以降の利息の徴収は本件土地が売却されるまでの間、見合わせることとしたのであるが、これは利息の支払いを免除したものではなく、また右借入金元利金の返済資金捻出のため、本件土地の売却が検討された。

ただ、昭和四四年一〇月以降の利息は、利率が未確定であったので、原告と訴外会社は、未払、未収の計上をしなかった。

(四) ところが、昭和四九年三月ころ、訴外会社は東京国税局の税務調査を受け、同局から、本件借入金は原告に対する無利息貸付であると認定され、年八・〇九パーセントの利率による利息相当額の経済的利益を原告に無償供与したものとして寄付金控除限度額を超える分につき課税する旨の更正処分を受けた。

(五) そこで、訴外会社と原告は、このままでは、今後も更正処分を受けるおそれがあるので、利息を免除したのではない旨を明らかにするために、昭和四九年三月二五日付で金銭消費貸借契約書を作成して合意し、利息について従前の条件では原告としては履行できないので、利率を公定歩合プラス〇・五パーセント、利払期を元利金の返済時期と同様本件土地売却の時とし、本件計算期間のたな上げ利息にも右の約定が遡って適用されるとされ、ここにおいて右たな上げ利息の利率及び利払期が確定された。

(六) 前項の合意に基づいて、原告と訴外会社は、昭和四九年四月以降の利息について、未払利息、未収利息として計上した。

しかし、本件計算期間中のたな上げ利息については、既に会社経理上は、未払、未収に計上しないことで会計処理を済ませており、課税上も前記(四)のとおり無利息貸付として処理済みであったので、これを遡及して修正することは不可能であった。

(七) その後、昭和五五年一月、ようやく本件土地が売却できたので、同年三月一二日、原告は前記(五)の合意に基づき、本件利息を訴外会社に支払い、右利息を本件事業年度の特別損失に計上して、損金算入し、訴外会社は利益計上した。

2  たな上げ利息の処理

(一) 借入金の利息を、どの事業年度の損金とすべきかについては、法人税法に規定はないが、同法二二条四項は「損金額の計算は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ってなすべき」旨を規定しているところ、企業会計原則は、利息については、債務者も債権者も現実に支払いがなされた時、又は履行期ではなく、利息の計算期間に対応した事業年度の費用、収益として会計処理すべきであるとする。

(二) しかし、これは通常の場合における会計処理基準であって、法人税基本通達二-一-二五では受取利息について、通常の発生主義的な会計処理によらず、実際に支払いを受けた時に益金算入を認める例外的な場合を規定しており、本件のように、借入債務者が債務超過に陥り、借入金債務がたな上げされた場合の会計処理は、右通達の趣旨からいって、債務のたな上げ期間は、債務者の支払利息を費用とせず、債務者は受取利息を収益とせず、たな上げ期間が終り、現実に利息の支払いがなされた時に、それぞれ費用、収益とする会計処理が認められるべきであり、これが一般に公正妥当と認められる会計慣行というべきである。

(三) 本件においては、前記のとおり、原告において利息の支払いが困難となったので、借入金債務をたな上げし、昭和五五年二月に至って、その元本を現実に弁済したのであるから、その支払利息は、右支払日の属する本件事業年度の損金とされるべきである。

3  不確定期限付債務の確定時期

(一) 本件支払利息は、前記第四、二、1、(三)で述べたとおり、弁済期について、本件土地の処分のときという不確定期限が付され、利率も未確定であり、それが、昭和四九年三月に至って確定したものである。

(二) 本件支払利息の右のような性格と類似の債務であって、法人税法に規定があるものに退職金支給債務があるが、同法は同債務について現実に支払いがなされたときに損金に算入するとされているのであるから、本件支払利息も同様に扱われるべきである。

4  二重課税の不利益

前記第四、二、1、(四)のとおり、訴外会社は、昭和四五年一〇月一日から同四八年九月三〇日の間は無利息貸付けだとして、認定利息課税処分を受けたのであり、さらに本件事業年度において本件利息の収益計上に基づく課税を受け、二重課税の不利益を受けることになる。

5  被告の行為否認の主張(第三、二、4、(一))に対する反論

訴訟上の防禦方法として、更正処分とは別に原処分の適法性を理由づけるため行為計算の否認をすることは許されないし、また、本件では法の定める要件すら具備されていない。

仮に、否認権行使が認められるにしても、被告は否認した行為に代わる通常の行為を明示し、これに基づく課税標準及び税額を計算すべきであるのにしないのであるから、いずれにしろ違法である。

第五原告の反論に対する認否及び被告の再反論

一  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1(四)、(七)は認める。

同1(一)のうち、原告が、訴外会社の系列下に入ったものの、業績が好転しなかったこと、訴外会社からの借入金の利率及び利払期が、当初日歩二銭四厘、決算期から四半期毎の約束であったことは認めるが、その余は否認する。

同1(二)は否認する。

同1(三)のうち、昭和四四年一〇月以降も原告の業績は好転しなかったこと、借入金元利金の返済資金捻出のため、本件土地の売却を検討したこと、同月以降、原告と訴外会社は、未払、未収の計上をしなかったことは認めるが、その余は否認する。

同1(五)のうち、原告主張の合意があったことは認めるが、その余は否認する。

同1(六)のうち、同(五)の合意に基づいて、原告と訴外会社は、昭和四九年四月以降の利息について、未払利息、未収利息として計上したことは認めるが、その余は争う。

2  原告の反論2(一)は認め、同(二)のうち、法人税基本通達に原告主張のような規定があることは認めるが、その余は争う。同2(三)は争う。

3  原告の反論3のうち、同(二)の法人税法には退職金支給債務について規定があり、原告主張のような処理を定めていることは認めるが、その余については争う。

4  原告の反論4、5は争う。

二  被告の再反論

1  原告の反論2(たな上げ利息の処理)に対する再反論

本件計算期間当時、原告が置かれていた状況は、法人税基本通達二-一-二五の予定する要件に該当しない。

仮に、該当するとして債権者が未収利息の計上を見合わせたとしても、債務者も未払利息の計上を見合わせ、現金基準によって費用として計上するという会計処理は、一般に公正妥当な会計処理とはいえない。

2  原告の反論4(二重課税の不利益)に対する再反論

法人税法は、個々の法人を独立の課税客体としており、たとえ系列会社であっても法人格が別個である以上は、別個の課税単位として取り扱うべきである。したがって、法人税の納税義務については、原告と訴外会社との間には何ら関係がなく、それぞれ独立しているのであるから、仮に訴外会社の課税に適正でない点があったとしても、それは訴外会社への右課税を是正すべきことになるにすぎないものであって、適法になされた原告への課税処分に、何らの影響を及ぼすものではない。

3  原告の反論5(被告の行為否認に対する反論)に対する再反論

法人税法一三二条の同族会社の行為計算否認の規定は、これにより課税標準及び税額が算出されたとしても、これが直ちに新たな課税標準を確定する効力を有し得ないものであるから、訴訟において、すなわち、その確定した課税標準及び税額を争うに当たり、原処分の理由はもとより全然別個の理由に基づいて主張することは違法でないし、その他被告の否認権行使には何ら違法はない。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因一(原告の地位)、二(本件処分の存在)、被告の主張1(課税の経過)、2(訴外会社からの借入れの経緯)、3(本件借入金に係る利息の約定とその経理の状況)のうち(一)、(三)、(四)、(五)、(六)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各更正処分及び本件賦課決定処分に、原告主張の違法が存するか否かについて検討する。

1  前記当事者間に争いのない事実に、証人加藤弘司、同鈴木章(第一、二回)、同宮本良平の各証言、成立の争いのない甲第一九、二〇号証、第二二号証、第二六ないし第三五号証の各一、二、第三七号証、第四四号証(弁論の全趣旨により原本の存在は認められる。)、第四五号証、第四六号証の一、二、第四七号証、第四八号証(弁論の全趣旨により原本の存在は認められる。)第四九ないし第五一号証、乙第一、二号証、第三号証(原本の存在も争いがない。)、第四ないし第一〇号証(第一〇号証は原本の存在も争いがない。)、右証人加藤、同鈴木、同宮本の各証言により真正に成立したと認められる甲第三号証、第六ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二号証、第一三号証の一、二、第一五ないし第一八号証、第二一号証の一、二、第二三ないし第二五号証、第三六号証、第四一号証の一ないし五及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実が認められる。

(一)  原告は、昭和三六年鋳鋼品等の製造販売を営業目的として設立された(なお、設立時の商号は、富士製鋼株式会社であったが、昭和五一年五月、東北製鋼株式会社と合併し、現在の商号となった。)が、その後埼玉県春日部市に工場用地として本件土地(二四筆、一万九、四九八平方メートル)を取得し、同四二年から同地で操業を開始したが、業績は不振であった。

(二)  そこで、原告に融資していた金融機関からの要請で、鋳鋼、鋳鉄等鋳造品の製造販売を事業目的としていた訴外会社が、原告の支援に乗り出し、昭和四四年九月ころ、原告の全株式を取得し、役員を派遣して旧経営者を退陣させた。そして、訴外会社は、その前後から、原告に融資を開始し、昭和四四年八月一一日から同四六年二月五日までの間、別表(二)の1ないし22のとおり金員(本件借入金)を貸付けた。

(三)  ところで、前項の融資は、当初は訴外会社が外注業者に貸付をする場合と同様、利率を日歩二銭四厘とし、利払期を決算期から四半期毎と約されていたが、融資開始後も原告の業績は好転せず、本件土地を売却処分するしか借入金元本の返済や利息の支払いが困難であったので、昭和四四年九月ころ、訴外会社は、同月末までの利息はこれまでどおりの利率で徴収するが、同年一〇月以降の利息は徴収を見合わせ、様子を見ることにした。

(四)  しかし、同年一〇月以降も、原告の業績は好転せず、借入金の支払い等は、やはり本件土地を売却処分してするより方法がないとなったのであるが、当時、本件土地は、その周辺に道路の開通の予定があり、将来かなりの値上がりも見込まれたので、原告も訴外会社も右土地を売り急ぐことはないとの判断で一致した。

(五)  そして、昭和四四年一〇月一日から同四九年三月三〇日の間(本件計算期間)の利息の会計処理にいては、原告が未払利息としてこれを計上すると、原告の経営状態が悪いことが、原告の取引金融機関に露見し、今後の融資に悪影響を与えるとの配慮もあり、原告はこれを未払利息として計上せず、そして、訴外会社もこれに呼応して、未収利息として計上しなかった。

(六)  ところが、昭和四九年三月、訴外会社が東京国税局の調査を受け、原告に対する本件計算期間の利息を未収利息として計上していなかったことなどから、原告に対する本件借入金は、無利息貸付であると認定され、年八・〇九パーセントの利率による利息相当額の経済的利益を原告に無償供与したものとして、寄附金控除限度額を超える分につき、課税する旨の更正処分を受けた。

(七)  そこで、訴外会社と原告は、このままでは今後も無利息貸付であるとして更正処分を受けるおそれがあったので、昭和四九年三月二五日付で金銭消費貸借契約書を作成し、借入元本の返済期及び利払期を本件土地の売却手続が完了した時として先の合意を確認し、更に、利率については従前の日歩二銭四厘では、原告の前記のような業績の下において到底その履行が望めないので、年利を公定歩合プラス〇・五パーセントと引き下げ、この利率は本件計算期間の利率にも遡って適用する旨合意された(本件変更契約)。

本件変更契約に基づき、原告と訴外会社は、昭和四九年四月一日以降の利息については、それぞれ未払利息、未収利息として計上したが、本件計算期間の利息については、右契約後も、何ら会計処理はしなかった。

(八)  昭和五五年一月一五日に至り、原告は、訴外常和興産株式会社に本件土地を代金一二億三、八六四万円で売却することができたので、本件変更契約に基づいて、同年二月二九日に本件借入金残元本二億五、〇〇〇万円が、同年三月一二日、融資金の残存元本五億二、三三一万五、八六〇円と利息として二億六、九九七万九、八四九円がそれぞれ訴外会社に支払われた。

(九)  右支払われた利息の中には、変更契約において合意された本件計算期間の利息相当分六、五四九万四、八一七円(本件支払金員)も含まれており、原告は、本件支払金員額を、本件事業年度の損金に算入した。

2  本件計算期間中の利息の計上時期について

(一)  法人税法は、各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額について、別段の定めのあるものを除き、「役務の提供に係る当該事業年度の収益の額」(同法二二条二項)と規定するが、その帰属時期に関しては、通則を置かず、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する」(同法二二条四項)と定めているにとどまるが、この一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によれば、右収益については、発生主義のうちいわゆる権利確定主義が採られていると解される。

(二)  他方、法人税法は、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額について、「販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で、当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」と定めており(同法二二条三号)、右債務の確定ありといいうるためには、前記益金について採られている権利確定主義との対応上からも、当該事業年度終了の日までに、(1)当該費用に係る債務が成立していること、(2)当該債務に基づいて具体的給付をなすべき事実が発生していること、(3)その金額を合理的に算定することができるものであることの三要件が充たされていなければならないと解される(法人税取扱通達基本通達((以下単に「法人税基本通達」という))二-二-一二参照)。

(三)  ところで、消費貸借契約における利息は、元本利用の対価であり、債務者は元本を受取った日からこれを利用しうるのであるから、利率の定めのある金銭消費貸借契約に基づいて元本受入れの事実が生ずれば、元本利用の期間に応じて利息は発生するのであり、現実にはなお未収、未払の状態にあったとしても、その期間に係る各事業年度の益金、損金の額に算入されるというべきである。

ちなみに、法人税基本通達二-一-二四が、貸付金利子の帰属時期について、利子の計算期日の経過に応じ、当該事業年度に係る金額を当該事業年度の益金の額に算入するとしているのは、前記趣旨を明らかにしたものといいうる。

(四)  ところで、前記認定事実によれば、本件借入金の利息についての約定は、昭和四四年八月一一日から同年九月三〇日の間は、利払期は決算期から四半期毎、利率は日歩二銭四厘であり、また昭和四九年四月一日以降は、利払期は本件土地の売却手続が完了した時、利率は公定歩合プラス〇・五パーセント(この利率は本件計算期間にも遡って適用される)と合意されたのであるが、本件計算期間中については、その徴収を見合わせたというのであり、しかも当時の状況では、営業収益によっては元本すら回収できるか見込みが立たない状態にあったというのであって、現に右期間の利息は、原告、訴外会社ともに未収、未払いとしての会計処理はしていないのであり、これらの事情のあることを考えると、右期間の利息については、取り立てを猶予したほか、利率も当初の日歩二銭四厘の約定はとりあえずご破算になったものと認めるのが相当である。

そこで、利率が当事者間で具体的に定められなかった場合の会計処理について検討する。

(1) 前記認定事実によれば、本件借入金は、別表(二)の年月日欄記載の日時に、借入額欄記載の額が、訴外会社から原告に貸し渡され、訴外会社はその利息請求権を放棄したり支払義務の免除をせず、有利息として請求権を依然留保していたというのであるから、前記債務の確定の基準(1)、(2)の要件はこれを具備していたということができる。

ただ、本件計算期間中の利息は、少なくとも右時点においては、当時者間で具体的に約定されていなかったことになるのであるが、昭和四四年八月一一日から同年九月三〇日の間の利率は、日歩二銭四厘と定められており、右期間の利息は現に二銭四厘の利率で徴収されていること、前掲各証拠によれば、本件計算期間中も、訴外会社は二銭四厘の利率で利息を計算し、その一部は原告に請求したこともあったこと、本件計算期間当時、訴外会社では、社外貸付の利率について、外注会社に対する利率は日歩二銭四厘、その他の一般業者に対する利率は日歩二銭五厘と定められていたことを総合すれば、本件計算期間中の各事業年度の終了時には、利率(したがって利息金額)を合理的に算定することは可能であったというべきであり、前記債務の確定の基準(3)も具備していたというべきである。

以上によれば、本件借入金に係る本件計算期間の利息債務は、右期間中既に確定していたというべきであるから、各事業年度に係る利息は、同年度の損金に含まれることになる。

もしこれを利率が未確定であるがゆえに、債務が確定しないとして、原告において、各事業年度の損金として計上しないことを許すならば、その後、原告と訴外会社で利率を確定する時期を操作することにより、利益調整の手段として利用される危険があるし、また本件計算期間内の各事業年度の損金を、本件事業年度の損金に計上することを許せば、欠損金額を繰越して控除できる期間を五年間に制限した法人税法の趣旨(同法五七条)を結果的には潜脱することを許してしまうことにもなる。

しかも、仮に利率が当事者で合意されなければ、債務として確定しないとの立場によったとしても、利率は、昭和四九年三月に原告と訴外会社との間で交わされた本件変更契約によって公定歩合プラス〇・五パーセントと具体的に定められたのであるから、少なくともこの時点では債務は確定したというべきであり(現に、昭和四九年四月一日以降の各事業年度の損金には、右変更契約による利率で計算された利息が、未払利息として計上されている。)、本件計算期間の利息は、右変更契約を締結した日を含む事業年度の損金に一括して計上されるべきものである。

(2) 更に、訴外会社の益金としての計上時期の面から検討するに、前記のように本件計算期間中の利息は、訴外会社が放棄又は免除したのではなく、有利息として請求権の行使を留保していたにすぎないのであり、利率も合理的に算定することができたのであるから、本件計算期間中、既に権利は確定し、所得の実現があったと解されるのである。

したがって、右合理的に算定された利率によって計算された利息が、本件計算期間内の各事業年度の益金に含まれることになる。

なお、原告は、本件計算期間中の原告の債務状態及び支払能力等に徴すれば、法人税基本通達二-一-二五の適用を受け、利息を右期間内の各事業年度の益金に算入せず、実際に利息の支払いを受けた日の属する事業年度の益金に算入することも許されると主張する。

そこで、右通達の適用を受けるかどうか検討するに、原告が、更生手続などの法律上の整理手続の開始を受けたり、更生計画の認可決定、債権者集会の協議決定により貸付金の返済が相当期間たな上げされたという事情は証拠上認められないのであるから、原告が前記通達(2)、(4)の要件に該当しないことは明らかである。次に、本件計算期間当時の原告の債務状態及び支払能力についても、成立に争いのない甲第二六ないし第三三号証の各一によれば、本件計算期間当時の原告の財産状態は、貸借対照表上は、負債総額が資産総額を上廻る債務超過の状態にあったが、前掲各証拠及び前記証人加藤の証言により原本の存在及び真正に成立したことが認められる甲第一四号証、成立に争いのない乙第九号証によれば、本件土地のうち約七、九一〇平方メートルの土地の、昭和四五年四月一〇日時点での鑑定評価額は約八、一七〇万円であり、本件土地全体の価格に換算すると約二億円となること、また原告と訴外会社は、右評価額を予想外に安い評価と考えていたこと、しかも、本件土地は、その周辺に幹線道路開通の予定があり、かなり値上がりの見込まれる土地であったこと、六大都市以外での土地の値上がり率は、本件計算期間中、工業地で年間一四パーセント以上の、住宅地で年間一四・四パーセント以上の高い上昇率を示していたことが認められるのであり、本件土地の時価は、期間が経過するとともに張簿価格を大きく上廻っていたと考えられるのであって、前記の各事業年度の貸借対照表上の負債総額と資産総額に、本件土地のいわゆる含み益を考慮すれば、本件計算期間中、原告が、実質的に債務超過の状態にあったとは認められない。

なお、前掲加藤証言により真正に成立したと認められる甲第一、二号証、甲第四、五号証及び右加藤証言、前掲鈴木証言には、原告の簿外負債を窺わせる記載及び供述部分があるけれども、いずれも具体的な裏付けをもたないので、これだけに拠ることはできないばかりか、訴外会社は原告の負債状況を調査し、右事情のあることも承知のうえで、なおかつ本件土地の価値に着目し、原告を訴外会社の系列下に入れても十分にやっていけると考えて経営に参画したのであり、また右各証拠によれば旧役員らの原告に対する約二億円の債権も放棄されていることも認められる。

本件計算期間中、原告は流動資産が少なく、右資産のみでは本件借入金の返済能力は十分ではなかったのは確かであるが、すでに判示してきたとおり、その資産状態は本件借入金の全部又は相当部分の回収が危ぶまれる状態にも至っていたとはいえない。

したがって、前記通達(1)、(3)の要件も具備していなかったといわなければならない。

(五)  以上によれば、本件計算期間中の利息は、同期間中既に権利が確定し、同時に債務も確定していたというべきであるから、右期間中の各事業年度の益金、損金として計上されるべきであったのであり、これを原告が本件事業年度の損金に計上することは許されないのであるから、原告の反論2(たな上げ利息の処理)、同3(不確定期限付債務の確定時期)は、いずれもこれを採用することはできない。

また、原告は二重課税の不利益を受けるとも主張する(原告の反論4((二重課税の不利益)))のであるが、原告は訴外会社の系列下の会社といえ、両社は別個の法人であり、また別個の課税客体なのであるから、右のような事情があったとしても、原告に対する課税処分の効力には影響を与えないというべきである。

3  以上の次第であって、原告は、本件計算期間中の利息を、本件事業年度の損失に計上することは許されず、被告がこれを損金不算入額として認定したうえ、所得を計算し、それに基づいてなした本件各更正処分及び本件賦課決定処分には、何ら違法は存しない。

四  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 稲葉一人 裁判官小松一雄は、転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 福富昌昭)

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

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